小説

【米澤穂信】【ボトルネック】自分の価値を否応なしに比較しなければならない世界

『ボトルネック(米澤穂信 著)』の感想レビュー。
考察の余韻を残す、後味は悪いけど考えさせられる作品。

もくじ

内容紹介

亡くなった恋人を追悼するため東尋坊を訪れていたぼくは、不意に眩暈を覚え、気がつくと見慣れた金沢の街に戻っていた。不可解な思いで自宅へ戻ったぼくを迎えたのは、見知らぬ「姉」。
自分が生まれなかった世界で見せつけられる、自分の価値。
世界のすべてと折り合えず、自分に対して臆病。そんな「若さ」の影を描き切る、青春ミステリの金字塔。

精神をえぐってくるSFミステリー

あれは、しょうがない。とか、どうしようもなかった。という経験はないでしょうか?
僕はあります。しょうがなかった。と、自分を納得させなんとか前に進んできた出来事が。
けど、変更不可能な通過点だと思っていた事象が改善可能な分岐点だったら?
自分の行動次第で、好転する可能性があったとしたら?
そして、好転させているのが自分以外の誰かだったら?
そんな”もしも”の世界を描く『ボトルネック』の感想です。

ボトルネックって?

文庫153ページ
【ボトルネック】
瓶の首は細くなっていて、水の流れを妨げる。
そこから、システム全体の効率を上げる場合の妨げとなる部分のことを、ボトルネックと呼ぶ。
全体の向上のためには、まずボトルネックを排除しなければならない。

全体の向上のためには、まずボトルネックを排除しなければならない。

迷い込んだ先は

主人公嵯峨野リョウ(さがのりょう)が迷い込んだのは、生まれる予定の無かった自分の姉、嵯峨野サキが存在している、パラレルワールド。
両親は二人子供を作る予定だったので、流れずにサキが生まれた世界では、リョウは存在していない。
それが、どういう変化をもたらすのか?
サキの提案で、街を散策することに。

リョウ世界とサキ世界の違い

まるっきり同じ世界。
リョウかサキだけの違いだけ。
その中で、身近な街の変化を追う。
リョウが最初に驚いたのは、冷戦状態だった両親の仲がサキ世界だと好転していたこと。
お互いがお互いの浮気を知ったXデー。リョウは諦観し、サキは介入した。

文庫67ページ
サキの言葉の中で、その単語だけがぼくの頭の中でリフレインしている。
岐路。分かれ道。・・・あの夜は、必然的にそうなるしかなかった通過点ではなく、分岐点だったと言うのか。

この事実は辛いよ。

諏訪ノゾミが生きている

リョウ世界とうってかわって、明るいノゾミに困惑しつつも、
自分がノゾミを救ったことに対して、他の誰であってもノゾミは救われていたであろう事実。

文庫174ページ
・・・あの日ぼくは、ノゾミを救ったつもりでいた。それはぼくだけにしかできなかったと思ってもいた。違っていたらしい。
ぼくがいなければ別の誰かがやっていた。そういうことだったのか。

そして、自分が一番よりどころにしていた部分も根底から覆される。

文庫286ページ
しかしそれにも増してむごいのは、ぼくがノゾミと過ごした時間の本当の意味を、サキが暴露してしまったこと。ぼくが過ごした平板な時間の中で、ノゾミを恋したことだけは唯一価値があるものだと思っていたのに、それはほとんどグロテスクでさえあったとわかった。
サキは言った。ノゾミは、あの日この公園を通りがかって話しかけてくれたひとを、模倣しているだけなのだと。
それが正しいのだとすれば、ぼくが恋したノゾミはなんだったのか?

リョウか気づいてしまったこと

文庫284ページ
「いや、俺も最初から気づいていた。もし、『間違い』があるとしたら、それは」
息を呑む。見え透いた結論なのに、それを言うとき、くちびるが痺れた。
「俺だって」
間違っていたのは、サキが先に生まれなかったこと。嵯峨野家に生まれた二人目が、サキではなくリョウだった、そのこと自体。
三日間かけてだんだんとわかってきた、この世界のパターン。それは、全て、どんな局面でも、ぼくの世界よりもサキの世界の方が良くなっているということ。
先は意識的に嵯峨野家を救い、無意識に辰川食堂の爺さんを救った。何より、ノゾミに向けられた悪意をその想像力で見破り、遠ざけた。
(中略)
サキがなんでもないことのように享受しているのは、僕が永遠に失ったものばかり。

自分ではなく、サキだったら自分が望むものを全て良い方向にもっていけた。
その事実に気づいてしまったリョウは・・・

物語の結末

リョウの生死は作中で描かれていない。
読者が『想像力をもって』後の物語を紡ぐ。
僕だったら、飛び降りているな・・・

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