小説『失はれる物語(乙一 著)』の感想レビュー。
もくじ
Calling You
あらすじ
女子高校生なのに携帯電話を持っていないのは自分だけだ。
買ったところで掛ける相手もいないし・・・
と自分を卑下しているリョウ。
本当は携帯が欲しくて、脳内で携帯電話を妄想し毎日想像していたら、
突然脳内の携帯電話が鳴り響いた。
電話を掛けてきた相手は、シンヤという同年代の男の子。
お互い友達が居ない者同士意気投合し、脳内携帯電話での交流が始まった。
感想
脳内携帯電話の時間がずれている設定。
※リョウとシンヤは一時間ズレいている。
実電話で初めて電話した時に、シンヤが一時間前の自分に
脳内電話で足をぶつけないように伝えてくれ!
なんてシーンはギミックを上手く使っているなと。
シンヤと出会えてリョウは成長する。
成長をまた別の人に伝播させていく・・・
いいですねぇ
失はれる物語
あらすじ
交通事故に遭いあい、全身麻痺になってしまった私。
唯一残っているのは右手の握力と皮膚感覚のみ。
手を握ることでコミュニケーションをとっていた。
妻はそんな私の元に毎日来てくれた。
残った皮膚感覚の上で引いてくれる妻のピアノはとても感情豊かだったが、
最近、感情に陰りが見え始めている。
原因は私だ。
治る見込みがないままの看病が彼女の負担になっている。
彼女はまだ若い。まだやり直せる。
なんとかして私を諦めてもらわねば・・・
感想
日ごろから喧嘩が絶えない仲だったけど、
毎日毎日お見舞いに来てくれるのは愛があったってことなのかな。
そんな妻の愛に、自分を諦めさせ新しい道を歩んでもらうのも相手を思う愛。
それをお互いが理解しあったであろう切ない物語。
傷
あらすじ
お互い親に暴力を振るわれ、特殊学校で知り合った同級生のアサト。
アサトには特殊能力があった。
他人の外傷を自分に移動し、また別の人に移動もできるというもの。
僕らはその能力を使ってボランティアを始めるが・・・
感想
微妙な能力だと思いきや、瀕死の傷を複数人に分散して全員生存なんかできる凄い能力。
僕だったら大金を要求して傷を移動させる商売を秘密裏にやっちゃう。
けど、アサトは優しすぎるためみんなの傷を自分に貯めこんでしまう。
もっと自由に生きていいんだよ。
虐待された恨みを晴らせ!のし上がってみせろ!!
なんて思っても優しすぎる。
最後は、あらゆる傷を集めて死のうとするし・・・
あまり共感できなかったなぁ
手を握る泥棒の物語
あらすじ
寂れた温泉宿まで運転手を任された主人公。
叔母の手提げから見えた現金と宝石を
時計職人で新作の資金繰りに充てることを思いつく。
目星をつけていた場所から壁に穴を空け、手提げを物色するが
触れたのは人間の手。
とっさに逃げられないように腕を掴み、確認していると
押し入れの中には一緒に出掛けたはずの娘がいた。
主人公は現金を手に入れ、上手く逃走できるのか?
感想
あらすじは凶悪犯そのものだけど、
内容はなるべく危害を加えたくない主人公と、
進路に悩んでいる娘がその場しのぎのやり取りがメイン。
他人同士の会話だからこそ話せる悩みもある。
終わり方がたまらんのじゃ~
一番オススメ。
しあわせは子猫のかたち
あらすじ
大学に入り一人暮らしを始めた”ぼく”は、
入居したアパートでぼく以外の人間が居るような体験をする。
幽霊の正体は、ぼくの前に住んでいた雪村という女性。
自分が殺されたことに気が付いていないのだろうか?
ぼくと、雪村と、子猫の共同生活が始まった・・・
感想
根暗な主人公と、
明るく行動的な幽霊。
意思疎通できる訳じゃないけど、
家の所々で雪村の息遣いを感じる。
雪村と子猫と共同生活をしていくうちに主人公の心は救われる。
最終的には雪村殺しの犯人を見つけるミステリー展開にもなるけど、
本筋は主人公と雪村の交流と、主人公の他人を忌避する性格の改善。
主人公はこれで前に進める!
マリアの指
あらすじ
姉の友人マリアが電車に飛び込み自殺をした。
数日後、家の裏庭で人間の指を拾った。
その指は僕の好きだったマリアのものだった。
なので拾った指をホルマリン漬けにして保存した。
指と一緒に生活するようになった僕は
原因不明の体調を起こすようになっていき・・・
感想
マリアは人を自殺に追い込むような魔女のような人間。
そんな女性の指と一緒に暮らしてたら体調不良・・・
って、もう呪いだよね?これ、呪いだよね!?
超能力ホラーかと思ったらちゃんとしたミステリー。
『正確の悪さや本質は変わらない』って理論もわかるけど、
『人は変われる』こともあるのかもしれない。
体調不良の原因がまさかなぁ
全体の感想
好きな順ランキング
- 手を握る泥棒の物語
- Calling You
- しあわせは子猫のかたち
- 失はれる物語
- マリアの指
- 傷
ジャンルが選り取り見取りな六作品。
上位三作品は、読了感がとても良い。
同一作者の短編集なので品質は保証。
内容によって好き嫌いが出ちゃうけど。
特に『手を握る泥棒の物語』は読んで欲しい。
ラスト1ページの読了感がたまらないんだぁ
オススメ