幕末まらそん侍(土橋章宏 著)の感想、レビュー
もくじ
あらすじ
二年ほど前、ペリー率いる黒船が日本に近海にやってきた。
安中藩藩主、板倉勝明は西洋人の侵略に備え、藩士たちを鍛えることにした。
家臣一同、鍛錬のため遠足(とおあし)を申し付ける。
五月十九日から六月二十八日までの期間で各自六、七名で組を作り、
安中城から熊野権現神社まで走り通すこと。
五十歳以下の藩士は全て参加すべし。
五月十日 安中藩藩主 板倉勝明
高低差約1000m、総走行距離約28.3kmの遠足を通しての、
藩士たちの心情に迫るオムニバス時代小説。
元ネタ
1855年(安政2年)に行われた安政遠足(あんせいとおあし)のこと。
安中藩(現在の群馬県安中市)藩主、板倉勝明が藩士の鍛錬のため、
藩士96人に安中城門から碓氷峠の熊野権現神社まで走らせた徒歩競走。
日本のマラソンの起源でもある。
感想
五章仕立てで、それぞれの主役たちがそれぞれの悩みを通足というイベントを通して折り合いをつけていく話。
史実の資料を元に人それぞれのに悩みを乗せて物語にするのが上手い。
藩の膿も出せてめでたしめでたし。
走った人数は、96人。
物語で語られたのは、その中の数名。
こういう物語もあったのでは?なんて妄想できる作品。
オススメ。
第一章:同僚同士の競争
片方は、真面目な文官黒木。
片方は、要領が良く、楽をしようとする文官片桐。
本番に向けて真面目に練習した黒木に対して、
片桐は籠、馬、近道とあの手この手と楽をして勝とうとする。
真面目な黒木に対して、片桐は正々堂々戦わない自分にもやもやを抱き・・・
第二章:夫婦と愛人
石井は妻、香代のマズメシに辟易していた。
江戸で逢瀬を重ねた美鈴を忘れられなかった。
そんな美鈴から手紙が届いた。
石井様を忘れられず、近くの宿場まで来ちゃいました。
石井は通足当日にコースを外れて会いに行くことを決意するが・・・
第三章:自分の仕事と生き様
幕府の隠密唐沢。
敵地安中藩に長い事潜伏しているが、泰平の世の中、報告する手紙には毎回「問題なし」の一文のみ。
自分のやっていることは何だろう?
こんなこと必要あるのか?
幕府は自分の報告をちゃんと読んでいるのか?
自分の存在意義が知りたくて、手紙の内容を変えることにした。
通足などという通達をだした。殿に乱心の疑いあり。
幕府の行動は早かった。
遠足当日、道中の宿場にて直接報告せよ。
唐沢は、報告に行こうとするが、
一緒に走る同僚たちの心遣いに次第に罪悪感が芽生え・・・
第四章:プライド
貧乏足軽の上杉。
足にはめっぽう自身があり、今回も一番を目指していた。
そんな中、オッズの高い上杉は負けてもらえないか?
という、街の遊び人からの提案。
八百長の報酬は十両。
貧乏足軽には喉から手が出るほど欲しい金額。
この金があれば家族を食わせることができる。
ゴール間際、応援する妻と子供の前で苦悩する上杉がとった行動とは・・・
第五章:懐古と跡継ぎ
五十歳の又兵衛とライバルだった勘兵衛の息子伊助。
伊助の頑張りが又兵衛の心を溶かし、又兵衛の助言が伊助を男にする。
通足最高齢と最低齢、二人三脚マラソン。