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【くちびるに歌を】合唱曲『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』から発想を得た青春小説【中田永一】

小説『くちびるに歌を』表紙

小説『くちびるに歌を(中田永一 著)』の感想レビュー。

乙一もとい、中田先生の青春小説。
長崎県・五島列島のとある島の中学校合唱部がNHK全国学校音楽コンクールを目指す話。

作中に出てくる『手紙 ~拝啓 十五の君へ~』は実際にNHK全国学校音楽コンクールの課題曲になった曲。
というか、小説化の大本が『手紙(アンジェラ・アキ)』のテレビドキュメンタリー

この番組、見たいなぁ

もくじ

手紙 ~拝啓 十五の君へ~

好きな方をBGMとしてドゾー

オリジナル

合唱

あらすじ

長崎県・五島列島のとある島の中学校。
合唱部顧問の松山ハルコは産休に入るため、ハルコの中学時代の同級生柏木ユリに、1年間の期限付きで臨時教員&合唱部の指導を依頼する。

新学期にユリが全校生徒の前であいさつをすると、
ユリの美貌目当てに合唱部に入部したいという男子生徒が続出。
もともと合唱部には女子しかおらず、以前から合唱部に所属していた女子生徒と軋轢が生じる。

そんな部内状況の中、ユリは7月に行われるNHK全国学校音楽コンクール長崎県大会出場にあたっても独断で男子との混声での出場を決め、合唱部の男女生徒間の対立は深まるばかり。

果たしてコンクールまでに部員たちの調整は間に合うのか?
合唱を通して、思春期真っ盛りの少年少女たちの成長を描いた作品。

感想

課題曲「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」にちなんで部員たちに出された宿題、

『15年後の自分に向けての手紙』

読者は、15年後の手紙や、登場人物たちの独白によって、彼らが各々に抱えている秘密や問題、心の傷などを知っていく。

30歳も越えると、ラブレターが脅しの材料(笑)って感じだけど、当事者たちは真剣。
自分が中学生だったころはどうだったかな?なんて思ってしまう。

笑いあり、事件あり、雨降って地固まって音楽コンクールに向けていざ!
ってスピード感が良いね。

そして本番、2,3年の女子生徒以外はコンクールは初めて。
みんなふわふわしている中、生徒たちを一致団結させる方法が好き。
「よし、集中しよう!」
「応ッ!!」
で集中なんかできたら最初からふわふわしてないっての。
自分たちに即した集中の方法で応援したくなる。

終わり方も余韻を残す終わり方で想像力を刺激してくる。
卒業した後、音楽の道に目覚める子とかいるのかな?

読みやすくてほんわかする小説です。オススメ!

好きなやり取り

五島列島ってどんな島?

「あの雲、『天空の城ラピュタ』に登場しそうな雲やねえ」
アニメのタイトルを口にすると、辻エリの銀縁メガネが光を反射して白くなる。

「ナズナ、あんた、しっててそがんこと言いよると?」
「は?なんのこと?」

「『ラピュタ』の美術を担当した人、五島の出身ばい」
「へえ、そうやったとね」

「そうよ。『時をかける少女』の背景もその人よ」
「ふうん」

「『ラピュタ』の空も、『時かけ』の空も、五島の空がモデルになっとるとかもしれんね」
「かんがえすぎじゃない?」

「子供のころの記憶が、絵に出とるかもよ」
「そうかなあ」

もしもそうだとしたら、大勢の日本人が、たとえ五島列島の存在をしらなくても、無意識のうちにこの空を体験しているというわけだ。想像すると楽しかった。

「手紙 ~拝啓 十五の君へ~」の解釈

「なんで混声のほうがよかと?」
「この歌には、二つの視点があるとよ」

『手紙』という曲の歌詞は、【僕】という視点人物の一人称で書かれている。
ただし、【十五歳の自分】と、大人になった【現在の自分】という二人の【僕】が居るのだ。

「【十五歳の自分】が未来の自分に手紙を書いたって設定よね?」
曲の冒頭部分を小声で口ずさんで長谷川コトミは言った。
「ここは女子が歌うことになってると。男越えはあくまでも背景の一部。そして次の【現在の自分】が語るところはね・・・」

「大人になった【現在の自分」が、【十五歳の自分】に返事ばしてるって設定ばい。
この部分、混声合唱だと、男声から入るとよ。低い声で子どものころの自分に語りはじめるわけ。
【十五歳の自分】は女子の高い声が中心になって、【現在の自分】は低い男声が中心になってるとさ」
長谷川コトミは僕を見る。

「変声期前の【僕】と、変声期後の大人になった【僕】ってこと?」
「そうよ。この歌詞だからできる演出ばい。高い女声と低い男声ばつかいわけて、子どもの【僕】と、大人の【僕】が表現されとるよね。この演出は女子だけではできん。男子の声がないと成立せん。やけん私、男子と歌いたいと」
長谷川コトミはそういうと、少し照れたような顔になる。

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