小説

【お探し物は図書室まで】本当に探しているモノは何ですか?【青山美智子】

『お探し物は図書室まで』表紙

『お探し物は図書室まで(青山美智子 著)』の感想レビュー。

あらすじ

お探し物は、本ですか? 仕事ですか? 人生ですか?
人生に悩む人々が、ふとしたきっかけで訪れた小さな図書室。
彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。

仕事や人生に行き詰まりを感じている5人が訪れた、町の小さな図書室。「本を探している」と申し出ると「レファレンスは司書さんにどうぞ」と案内してくれます。

狭いレファレンスカウンターの中に体を埋めこみ、ちまちまと毛糸に針を刺して何かを作っている司書さん。本の相談をすると司書さんはレファレンスを始めます。不愛想なのにどうしてだか聞き上手で、相談者は誰にも言えなかった本音や願望を司書さんに話してしまいます。
話を聞いた司書さんは、一風変わった選書をしてくれます。図鑑、絵本、詩集……。

そして選書が終わると、カウンターの下にたくさんある引き出しの中から、小さな毛糸玉のようなものをひとつだけ取り出します。本のリストを印刷した紙と一緒に渡されたのは、羊毛フェルト。「これはなんですか」と相談者が訊ねると、司書さんはぶっきらぼうに答えます。 「本の付録」と――。

自分が本当に「探している物」に気がつき、
明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。

感想

年齢、性別、環境が違う六人の男女がひょんなことから図書室を訪れ、司書に適切な本を紹介してもらい人生が改善していく内容。
六人のうちだれに感情移入できるかによって自分の現状を知ることができるような気がする。

■一人目:朋香 二十一歳、婦人服販売員
職場の仕事にもついていけず、働いては家に寝に帰っているだけの生活。
食生活も乱れてなにやっているんだろう?自分という状態。

■二人目:諒 三十五歳、家具メーカー経理部
職場の人間に頼られるのがツライ。
やりたいことがあるけど、二の足を踏んでいる状態。

■三人目:夏美 四十歳、元雑誌編集者
頑張って達成した仕事を出産、育児のため離脱。
復帰しても元の現場には戻れなかった。
それでも編集者としてやっていきたいけれど、育児が・・・

■四人目:浩弥 三十歳、無職
イラスト書くのが好きで専門学校に行ったけどイラストと関係ない仕事に就き、人間関係がうまく行かず無職に。
自分の描くイラストにも自信が持てない。けど、イラストが好き、どうすれば・・・

■五人目:正雄 六十五歳、定年退職
定年退職後、やることが何もない。
43年間働いてきた場所は一体なんだったんだろう・・・?

一人目読んだ時点では対して面白くもなく、読むのを止めようと思ったけれど、
二人目の悩みが僕に刺さったので読書継続。
結局最後まで読んでしまったぁ・・・

話が進むにつれ、前話の登場人物たちとのちょっとした絡みが見えるのも面白い。
自分の境遇と合いそうな内容を読むのをオススメ。

作中の言葉

「いつか、雑貨屋をやりたいんです。アンティークの」

「いつか」

「いや、だって、すぐには会社辞められないし。
店を開けるほどの莫大な資金をあっさり調達なんてできないし。
そりゃ、いつかなんて言ってるうち、夢で終わっちゃうのかもしれないけど・・・」

「いつかって言っている間は、夢は終わらないよ。ずっと続く。
かなわなくても、それもひとつの生き方だと私は思う。
無計画な夢を抱くのも、悪いことじゃない。
日々を楽しくしてくれるからね」

僕は言葉を失った。
「いつか」が夢を見続けるための呪文だとしたら、その夢を実現させるためには何を言えばいいんだろう。

やりたいこといくつかあるけれど、「いつか」やろうって思ってる。
金がないから「いつか」やろう
時間がないから「いつか」やろう
そうやって言い訳しつづけて結局やらないんだよなぁ

「ああ、崎谷さんもメリーゴーランドに乗ってるとこか」
「メリーゴーランド?」

「よくあることよ。
独身の人が結婚している人をいいなあって思って、
けっこんしてる人が子どものいる人をいいなあって思って、
そして子どものいる人が、独身の人をいいなあって思うの。
ぐるぐる回るメリーゴーランド。
おもしろいわよね、それぞれが目の前にいる人のおしりだけ追いかけて、先頭もビリもないの。
幸せに優劣も完成形もないってことよ」

隣の芝は青い。
他人を羨ましがるのではなくて、自分が幸福かどうかを考えなくては。

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