小説『鉄道員(ぽっぽや)(浅田次郎 著)』の感想レビュー。
映画にもなった表題の他、八つの短編集。
あなたに起こる やさしい奇跡
↑発売当時(1997年)のキャッチコピー。
もくじ
鉄道員(ぽっぽや)
あらすじ
炭鉱鉄道として賑わったJR北海道のとある路線、
炭鉱が閉山し、年々利用客も減り、ついに廃線が決定した。
廃線と同時に定年退職する、鉄道員(ぽっぽや)一筋の幌舞(ほろまい)駅長の乙松。
そんな乙松の元に訪れる娘たち。
一体、どこの家の子が年末年始帰省しているのだろうか?
自分の娘が生きていればこんな感じに育っていたんだろうか?
妙な親近感を覚え、毎日娘たちと交流をする乙松だったが・・・
感想
この短編を、120分の映画にしたの!?
という衝撃が強かった。
乙松に訪れた娘を、
奇跡と捉えるか、
脳の障害と捉えるか、
走馬灯と捉えるか・・・
僕は脳の障害で見た幻覚派。
徐々に発症していく脳梗塞から幻覚を見て、
最後は完全な脳梗塞でホームに倒れたまま凍死してしまった・・・
って感じ。
でも、幸せってのは本人の間隔だからね。
脳が見せた幻でも本人は幸せだったんだろうなぁ
ラブ・レター
あらすじ
歌舞伎町のチンピラ高野吾郎は四十歳手前の裏ビデオ屋店員。
ある日、外国人の日本国籍取得のため偽装結婚した顔見たことの無い妻の訃報を受ける。
旦那として身元引き取り人として、現地に向かう傍ら、妻が出した手紙を読んでみると、
そこには、自分に対する感謝の言葉で埋め尽くされていた・・・
感想
心に隙間がある時って赤の他人からでもその優しさが染みるんだよな・・・
吾郎も留置場から出てきて、自分の人生を振り返って、
同じような境遇の外国人に同情して手紙を見たら、自分への感謝だったため、
感情の振れ幅が決壊してしまった。
実際に身近に起きた出来事らしいけど・・・
悪魔
あらすじ
新しく来た家庭教師は悪魔だ!
夜な夜な俺の母ちゃんをいじめてやがる!
じいちゃんは悪魔に呪い殺されるし、
使用人たちは次々と辞めていく。
どうすれば悪魔から家を守れるのか・・・?
感想
家庭教師と肉体関係を持った母と、
病気で亡くなった祖父。
祖父が居なくなったことで凋落していく実家。
それを子供の一人称視点で描いた作品。
一人称視点なので、妄想も多分に含む。
角筈にて
あらすじ
貫井恭一は、
会社の出世街道から外され、日本の反対側、ブラジルへ左遷させられることに。
フライト当日、空港まで移動する途中、
自分を捨てた親父の幻影を見る・・・。
感想
息子を捨てた親父に対して、
息子は未練を持っている。
最後、親父の幻覚を見て、
捨てられた時に親父に言ってほしかった言葉のチョイスが良い。
未練はそこだったんだね。
伽羅
あらすじ
大手ファッションメーカーの営業勤務をしている主人公。
なんでも言い値で買ってくれるブティック『伽羅』に服を始めて卸した。
普段であればカモ以外のなにものでもないが、
そこの女店主に惹かれ、良心的な付き合いをする主人公。
そのうち、伽羅にカモとして服を卸していたライバル店の営業マンが事故で死に・・・
感想
人為的に殺したのかただの偶然か。
伽羅には近づくな。
という助言と、
伽羅の店主の美貌と、
同業者の事故死、
が絡み合ってミステリアスさを出してる。
うらぼんえ
あらすじ
夫が浮気をして相手を妊娠させてしまった。
自分たち夫婦には子供がいない。
その影響でお盆に帰省した夫の実家でも離婚を迫られる。
天涯孤独のちえ子だったが、死んだはずの祖父が登場して・・・
感想
他人にも視認される祖父。まさに奇跡。
角筈にてが父だったのに対して、今回は祖父。
僕はこっちの方が好き。
ろくでなしのサンタ
あらすじ
クリスマスイブに釈放された柏木は、
同じ房に入っていた北川に同情して、
北川の家族にクリスマスプレゼントを買っていく。
本人とは気づかれぬようにプレゼントを渡すが・・・
感想
イベントに迎合できないと妙に悲しい気分になってしまう。
それでも、生きていかねばならないんだなぁ
オリヲン座からの招待状
あらすじ
映画館西陣オリヲン座が閉館することになった。
地元を出た三好夫婦にもその情報は届き、
二人して最終日にオリヲン座を訪れる。
感想
小さいころ親しんだ施設が無くなる。
というのに弱い。栄枯盛衰ね。
色々噂されていた館長の誤解が解け、
子供では入ることの許されなかった映写室で最後の上映を見る夫婦。
子供時代と大人になったときの対比がいいね。
最終日だけど、座席がスカスカなのも好き。