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【ひと】人と人との繋がりを見つける物語【小野寺史宜】

小説『ひと』ハードカバー表紙

小説『ひと(小野寺史宜 著)』の感想レビュー。

あらすじ

母の故郷の鳥取で店を開くも失敗、交通事故死した調理師の父。
女手ひとつ、学食で働きながら一人っ子の
僕を東京の大学に進ませてくれた母。――その母が急死した。
柏木聖輔は二十歳の秋、たった一人になった。
全財産は百五十万円、奨学金を返せる自信はなく、大学は中退。
仕事を探さなければと思いつつ、動き出せない日々が続いた。
そんなある日の午後、空腹に負けて吸い寄せられた商店街の総菜屋で、買おうとしていた
最後に残った五十円コロッケを見知らぬお婆さんに譲った。
それが運命を変えるとも知らずに・・・。

そんな君を見ている人が、きっといる――。

感想

主人公の柏木は、父親を交通事故で亡くして、母親が急死。
東京の大学に出てきていたものの学費が払えずに中退。
無色になり食費を切り詰める毎日の中、ふらっと通りかかった商店街の総菜屋でコロッケを買ったことから柏木の日常は動き出す---。

総菜屋で働くことになり、亭主たちに可愛がられる毎日、
店先で再開する同郷の同級生。
料理人だった父が働いた店へ行ってみたり。

全てを失ったと思っていても、
大切なものは残っていたし、新しく生まれる。
この本は、”ひと”と”ひと”との繋がりを
柏木のとある一年間を通して体験していく物語。

僕は本を読むとき、最初にもくじを見るんだけど、
そのもくじがいいのよ
・一人の秋
・一人の冬
・一人の春
・夏

あぁ、夏になにがあるんだろうって。

作中の言葉

客前での叱責としては、度を越したような気がする。
途端にラーメンの味が落ちる。
僕のほうで味を楽しめなくなる。
再訪はないかもな、と思ってしまう。

それ以上はいけない。
空気悪くなるの分かるなぁ
長居したくなくなるし、二度と来たくないよね。

昔、神奈川に住んでいた頃、
再注文禁止の焼き肉屋があってさ、あれはきつかったなぁ。

「ねぇ、柏木くん。わたし思うんだけど」
「うん」
「何もかもあきらめなくても、いいんじゃない?」

丸イスに座ったまま、青葉を見上げる。
青葉も僕を見ている。見下ろしている。
でも不思議と見下ろされている感じはしない。
あぁ、僕はこの人が好きなんだな。

人を好きになる瞬間。というか、好きと自覚した瞬間。
些細なことだったりするんですよ。

「プラスが生まれたときよりマイナスが消えたときのほうが人はずっとうれしいんだってわかったよ」

プラスが生まれることと、
マイナスが消えること。
どっちがいいんだろうね?

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