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【いまさら翼といわれても】古典部メンバーの過去の清算と未来に進むための短編集【米澤穂信】

小説『いまさら翼といわれても』文庫表紙

小説『いまさら翼といわれても(米澤穂信 著)』の感想レビュー。

古典部シリーズの6作目。
古典部各人の掘り下げと、次につながる心境の変化を描いた6編の短編が収録。

もくじ

箱の中の欠落

あらすじ

神山高校の生徒会長選挙で、開票時に票が水増しされていたことが発覚する。
その犯人として選挙管理委員の1年生が疑われてしまう。
選挙の投票立会い人として参加していた里志は、このことを不審に思い最初は自分で推理するが行き詰まり、奉太郎に相談する。
奉太郎は、突然電話してきた里志に困惑するが、里志が立会い人としてではなく選管の1年生を疑った選管の委員長に一泡吹かせてやりたいという理由から依頼してきたと知り、推理に協力する。

感想

里志のおせっかいさと、奉太郎の人の好さが垣間見える話。
奉太郎のめんどくさがりも改善してきているのか・・・?

鏡には映らない

あらすじ

摩耶花は、ある日偶然中学で同級生だった池平と会い、話題は卒業制作の話になる。
奉太郎や摩耶花が卒業した年、鏑矢中学では卒業制作として鏡のフレームを作ることになり、それは各班が分担されたパーツを作り、最後に組み合わせて完成というものであった。
他の班がパーツを完成させていく中、奉太郎の班は、デザインを無視した明らかに手を抜いたパーツを提出し、結果として多くの生徒の恨みを買ってしまう。
摩耶花は、このことを疑問に思い、直接奉太郎にその真意を聞くがはぐらかされてしまう。
気になる摩耶花は奉太郎と同じ班であった芝野から、鳥羽麻美という人物が関わっていることと麻美が奉太郎の彼女だということを聞く。
さらに調べていくうちに、摩耶花は意外な真実を知ることとなる。

感想

摩耶花と奉太郎との和解?話。
多くを語らず、分かる人だけが分かるスタンスの奉太郎はカッコイイ気もするけど、
損する生き方だなぁと。

連峰は晴れているか

あらすじ

ある日、奉太郎はふと中学時代に教師の小木正清が「ヘリが好きなんだ」という趣旨の発言をしたことを思い出す。
しかし、小木がそのような発言をしたのはその一度きりであった。
奉太郎は、ある嫌な予感がし、その予感を確かめるために、えると一緒に図書館へと向かう。
そこで奉太郎たちは、小木が登山家だったことを知る。
そして、過去の新聞記事を調べていくうちに、小木が「ヘリが好きなんだ」といった真意が明らかになっていく。

感想

人に嫌な思いをさせないようにヘリ好きの真相を突き止める話。
奉太郎の人を思う気持ちが垣間見れる。

わたしたちの伝説の一冊

あらすじ

文化祭の一件以降、摩耶花の所属する漫画研究会では”漫画を読みたい派”と”漫画を描きたい派”に分かれてしまっている状態になっていた。
そんなある日、摩耶花は”描きたい派”である浅沼から、神山高校漫画研究会名義で出す同人誌を描きたいから手伝って欲しいと頼まれる。
その真意は、同人誌を出したという既成事実を作ることで、”読みたい派”の人たちに「漫画研究会は漫画を描くところだ」というのを示すことが目的であり、また浅沼から指定されたテーマが漫研ということもあって、摩耶花は手伝うことを渋ってはいたものの最終的に承諾する。
しかし、その同人誌を描くという計画が”読みたい派”に露見してしまい、浅沼・摩耶花共々漫研で吊し上げられてしまう。
その結果、”読みたい派”であり次期部長である羽仁に、「同人誌を完成させられたら、読みたい派は退部して別の部を作る。その逆だったら描きたい派は出て行け。」という条件を半ば強引に飲まされてしまう。
そんな中、漫画のネームを描いていた摩耶花のノートが盗まれてしまう。

感想

摩耶花が漫画に本気で取り組むようになる話。

「あたしは漫研をやめられなかった。
あんたみたいに反感覚悟で、漫研の中で書き続けることもできなかった。
変に慕われちゃってね、それを振り捨てられなかったんだ」

先輩は、わたしに言い聞かせるように、まっすぐ私の目を見据える。
「後悔してる。三年の高校生活のうち二年も、あんなところで使ってしまったこと」
無言のうちに、あんたももう一年使ったんだよ、と突きつけられる。

先輩の手が硬く握られる。
「本当はもっと書かなきゃいけなかった。
だから、遅かったかもしれないけど、描くためにやめた。
あたしには才能がある、ちっぽけでゴミみたいな才能だけど、
でも、あたしはそれに仕えなきゃいけなかったんだ」

才能に仕える。
先輩、でもそれは、くるしいことです。
友達も仲間も振り捨てて、本当に頼りになるのかわからない自分の才能に仕えるのは、とてもこわいです。
先輩はそうすると言ううんですか?
そして、わたしにもそうしろと?

良い台詞です。
過去の確執と取り払い、未来に邁進していく姿はとてもかっこいい。
ベストエピソードの一角。

長い休日

あらすじ

ある日、目覚めた奉太郎は、珍しく自分の調子が良いことに気づく。
昼食をとり終えた奉太郎は、散歩がてら本を読むために荒楠神社へと向かう。
すると、偶然十文字かほと会い「えるもいる」と言われ詰所内のかほの部屋に連れて行かれる。
そして、成り行きでえると一緒に神社の清掃を手伝うことになった奉太郎は、そこでえるに、なぜ奉太郎のモットーが「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」となったのか理由を聞かれる。
質問を受けた奉太郎は、きっかけとなった小学校の時の出来事を話し始める。

感想

奉太郎が小学校で感じた出来事から自分の感情をある意味で眠らせた。
その長き眠りから覚めた---”覚めたと自覚”した話。

一巻から飄々としている奉太郎だったけど、
それは自衛の一種だったんだなぁ

---そう。あんたは不器用なくせに、器用になりたいのね。
あんたはばかのくせに変なところで頭が良いから、嫌な気づき方をしちゃったのね。
いいよ、止めない。それでいいんじゃない。
あんたの言っていることは間違ってないと思うよ。

---あんたはこれから、長い休日に入るのね。
そうするといい。休みなさい。
大丈夫、あんたが、休んでいるうちに心の底から変わってしまわなければ・・・

お姉ちゃんが奉太郎に言った台詞。
お姉ちゃん、この時中学生。
大人すぎだろ・・・

いまさら翼といわれても

あらすじ

2年生の夏休みのある日、摩耶花から「ちーちゃんの居場所を知らない?」という電話が掛かってくる。
市の合唱祭でソロパートを歌うはずだったえるが、出番が近づいても会場に現われないというのだ。取りあえず会場に向かった奉太郎は、僅かな手がかりから居場所と来ない理由を推理していく。

感想

『わたしたちの伝説の一冊』とベストエピソードを争う一作。
千反田えるの物語。

『わたしたちの伝説の一冊』で摩耶花は自分の進むべき道を自覚し、仲間とともに突き進む決意を決めた。
一方、えるは、小さい頃から決められていた人生のレールを突如外されることになり、苦悩する。

いずれは自分で落としどころを見つけることができるんだろうけど、
今、このタイミングでどうしても言いたくない台詞が。

わかるなぁ~
自分の皮膚感覚で嫌なことって、我慢してやっても一生後悔するんだ。
・・・ちょっと違うかな?
普段、好奇心旺盛でマイナスの感情表現が少ないえるの別の顔が見れる作品。

まとめ

実は、読むの二回目。
書店で文庫本を見かけ、
「新作出たッ!
えるのその後が、わたし気になります!」
勇んで購入したものの、既視感がある内容ががが・・・

でもま、読み返してみると、
『わたしたちの伝説の一冊』
『いまさら翼といわれても』
の二編はやはり良い。

ただ、この本をいきなり読むより、
古典部シリーズを読んでから読むと、感情移入度が高いので、
一作目から読むのをお勧めします。

古典部シリーズ一作目

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