小説

【ルー=ガルー2 インクブス×スクブス】絶対殺す液体は薬?それとも毒?【京極夏彦】

『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔』文庫表紙

『ルー=ガルー2 インクブス×スクブス 相容れぬ夢魔(京極夏彦 著)』
脳が活性化した世界で視えるものは・・・?

あらすじ

近未来。少女・牧野葉月たちは閉じた世界の中、携帯端末(モニタ)という鎖に縛られて生きていた。
そこは窮屈ではあるものの不純物のない安全な檻――のはずだった。
が、その世界に突如現れた連続殺人犯。
少女たちは、殺人犯とその背後に聳える巨大組織との対決を余儀なくされる。

驚愕の事件から数ヵ月。世間は一時、安定を取り戻したように見えた。
前回の事件の被害者として、この世界に漠然とした不安を抱えていた少女・来生律子のもとに、小瓶に入った謎の毒を持った作倉雛子が訪ねてくる。
雛子は毒を律子に託し姿を消す。
奇妙な毒の到来は、新たなる事件の前触れなのか・・・。
「突如凶暴化する児童たち」
「未登録住民達の暴動」
「奇怪な製薬会社」
「繋がる過去と、現在の事件」
すべての謎が明かされるとき、新たなる扉を開けた少女たちは何を想う?

感想

前作のルー=ガルー1で、『百鬼夜行シリーズ』の未来だということが判明した本シリーズ。
二作目は、ちょっと触れただけで絶対死ぬ未知の毒薬が登場。
ほうほう・・・これは『邪魅の雫』で登場したあの毒薬なのでは?(正解)

百鬼夜行と同様で前半では様々な事件が乱発して風呂敷を広げに広げて、
最後は単独事件たちが実は一つの原因から端を発していたことが分かるという展開。

ハードカバーで、966ページという大作。
単発事件はそんなに面白くなかったので読むのが苦痛だった。
事件の関連が見え始める540ページ辺りから面白くなってきて、
残りはジェットコースターだった。

ねちっこく理屈っぽい文章と、広げた風呂敷が一点にむかって全て収束していく展開は、
百鬼夜行シリーズを彷彿とさせる面白さ。
これぞ、京極夏彦節!

本作は、邪魅の雫の『絶対殺す毒液』から進化した毒(薬?)が登場、
効果は『特定のDNA配列を持つ人間』に対して・・・
・インブクス(インキュバスの意味)・・・絶対殺すマン
・スクブス(サキュバスの意味)・・・能力向上マン
の二種類が登場。

作中では、スクブスを更に改良して脳の処理能力を急上昇させるようになってた。
それを摂取すると、思考能力が上がり、時間が10倍に間延びして感じる。
つまり、主観時間は10倍長生きできるんだよ!!
→す、スゲー!

800年生きるより、
80年を10倍の効率で生きた方が面白そうだ!

なんて思ったけど、
『肉体は現実時間のままだけど脳だけが年を取って、脳が先に老衰で死ぬよ』
なんて副作用だった。

人間って思い込みで胃に穴が空いたりするものなぁ・・・

作中の言葉

「問題は、そのできるできないて理解の仕方。
機械と違ってさ、そのできるできないの線引きってのは、大体その本人がしてるだけなワケね」

「自分の限界ってのは、まあそいつが与えられた条件と折り合いつけるようにしてさ、
育成環境の中で自分が勝手に決めつけるんだよ。
そんな難しいことはできないとか、
ややこしいことはしたくないとか、
痛いからヤだとか、
八時間以上寝ないと駄目なんだとか、
数字は嫌いだとか、
そういうのみーんな思い込み」

「思い込み---かな」

「思い込みだって。根拠ないじゃんか。
で、まあ大半はその勝手に自分で引いた線より下で暮らしているワケ。
だから出来て当たり前だし、時に出来ることもできない」

「それ、自分基準以下の能力で生活しているってことな」
「まあそうだろうけど」

「限界線より下だから安全圏。
でも、あたしの場合は限界線より上に行く。危険なの」

「できないことができる訳?」
「できないと思っていることが出来るってだけだけどね」

自分の限界って案外自分で決めちゃってるのかもしれないよね。

「うち、考えナシなん。
走って転んだら転んだ時に次のこと考えるようにしてるん。
要は走る理由が自分の中にあれば、走る」
「理由?」

「何でもいいの。
走りたいとか、歩きたくないとかつまらんことでいいの。
だって、どっちでもいいことやんか。
あんた、転ぶかもしれんと思って走らないタイプと違う?」

やりたいからやる。
シンプルで良い考えだよね。

「死ななければ救われないこともあると申し上げているだけです。
わたくしは、死を願うことはあっても自ら命を絶とうとは思いません。
ただ、この苦しみを甘んじて受け続けるだけです」

(中略)
「(液体を)飲んでも、死なないかもしれんのか」
死を決心して、
---それは、生きていた方がいいに決まっていると知っている者にとっては大変な決心だと思うけれども---
それでも、それを覆す程に辛い何かがあって、それで。
それで、死のうと決心したとしても。
「五分五分---なんや」
それは残酷だろう。

重大な決断の成功率が五分五分とか、しんどいわ・・・

「後悔は止せよ」
「うるさい」

「今更遅いよ。
あのな、人生ってのは失敗ばかりだぜ。
反省はいいが、後悔は無駄だ。
後悔なんかしてたら息が詰まるぜ。
お前はまだ若いがな、俺くらいになると後悔漬けで溺れそうになるぞ」
あんたは弱いからだと娘は強がった。

人生、後悔ばっかりだなぁ・・・
でも、過去振り返ってもしょうがないし。
後悔の思考すらできないくらい忙しくありたいね。

「当ッたり前じゃん。
別に走れなくたって日常生活そんなに困るワケじゃないし、
鈍くたって遅くたってフォームが悪くたって、
正常に走れればそれで充分なんだよな、人間は。
鍛えるとか磨くとか適当なこと言ってたみたいだけど、それって負荷かけるだけじゃん。
肉体苛めたっていいことなんかないよ。
ハサミどんだけ鍛えたって鉄板は切れないだろ。
切ったら切ったでボロボロになるぜ。
手入れは必要だけど鍛えるのは無駄な」

適正な運動ってのはメンテナンスであるべきもんだろと美緒は言った。

それでもマッチョに憧れてしまいます。

「良いとか悪いとか、
正しいとか間違っているとか、
そういう価値判断はな、実は相対的なものだからな。
で、俺なんかはもう、天地の中で完全に孤立しているようなもんだからな。
好き嫌いだ好き嫌い。
こりゃ絶対的だぜ」

相対的な基準より、絶対的な基準の考え方。
いいね。

「嫌なの」
「何がだ」
「このままは嫌だ」

「そう言え。
お前はこのままじゃ嫌だけど何もできないと思っているから嫌なんだろ?」
「そう---だと思う」

ほらな、と美緒は律子を見た。
「ほらって何?」

「言っただろ。
人間はできることとできないことの線引きを自分で勝手にしてさ、
その線の内々で生きてるんだよ。
でも、体外その線引きは間違っているワケだ。
安全圏でぬくぬく生きるのは楽だけどオモシロくなーい」
「まあそうやけど」

「いいか、絶対できないことは絶対できない。
それができると思うのを夢というんだ。
だから、夢は絶対に叶わない。
夢は寝てる時に見るもんで起きている時に見るもんじゃなーい」

「でも、夢を捨てないでとか言うよ」
「バカ。実現できるならそれは夢じゃなくって目標だ。
それは、できることだ!」

「実はできることをできないと思い込んでしないのは、ただのナマケ者だナマケ者」

僕はナマケ者だった・・・?
このセリフは刺さるぜぇ・・・

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