小説

【さざなみのよる】小国ナスミ享年43歳。死から始まる思い出の物語【木皿泉】

『さざなみのよる』ハードカバー表紙

小説『さざなみのよる(木皿泉 著)』の感想レビュー。

もくじ

あらすじ

小国ナスミ享年43歳。
その死が家族、友人、知人に波紋のように広がってゆく。
彼ら彼女らは、ナスミの訃報を受け、ナスミをどう思い出すのか?
生前関わった人たちが紡ぎ出す、ナスミの回顧録。

感想

物語は1話でナスミが死ぬところから始まる。
全14話構成で、各話ごとに違う主観で故人を思い返す内容。

ナスミ主観で・・・
1話:本人
2話:姉
3話:妹
4話:夫
5話:祖母
6話:中学の同級生
7話:誘拐犯
8話:昔の職場の後輩
9話:中学の同級生の妻
10話:夫の後輩の妹
11話:漫画家
12話:昔の職場の先輩
13話:娘
14話:娘

正直、身内の話(5章)まではあまり面白くなかった。
身内の一人が死んで、家族が悲しむ。っていうのはありがちな展開で、
各々がなにかしら故人を思うのもとーぜんの展開。

それが6章以降の他人とナスミの関わりになると一転して面白くなる。
無理して関わる必要が無い他人だからこそ、生前のナスミとのやり取りに味が出てくる。
ナスミのイメージは酒タバコを嗜み、大声で笑う自由奔放なイメージ。
そんなナスミを誤解したりするけどなんだかんだでみんな背中を押して貰っている。
ナスミの言葉や行動は他人それぞれの人生に影響を与えている。
・・・ナスミに自覚はなさそうだけれど。

「彼女、死んだんだ・・・そういえばこういうことがあったよなぁ・・・」
なんて、死後、自分を思ってくれる人が要るってのは幸せなことなのかもしれない。

波紋

各章の冒頭で徐々に広がっていく波紋の演出が良い。
ストーリーも身内→他人とナスミと関係が薄い方向に展開していっていて、
波紋の広がりと関係しているのかな?

心に残った作中のことば

ナスミは、実は自分も泣かなかったんだよねぇという話をした。
(中略)
素直になれなかったのよ。
それがよくなかったのかなぁ。
母親が亡くなっても、やっぱり素直になれなくて、
私、ゼンゼン泣かなかったんだよねぇ、そんな話をした。

「私、冷たい人間なのかな?」
ナスミは気弱く笑いながらそう言った。

「そうじゃなくて、本当に大切なものを失ったときって、泣けないんじゃないかな」
「じゃあ、いつ泣くのよ」

「あれは大切なものだったなぁと、後から思ったときに泣けるんじゃないの?」
ナスミは、ふうんと遠くを見ながら、「私、まだ過去のことじゃないんだ」

「うん、そう。オレも、まだ過去になってないんだな、部活止めたこと」

悲しいことも楽しいこともそう。
直後は気づかないんだ。
思い返して、
「あぁ、あれは悲しかった(楽しかった)んだ」
って再認識するんだよね。

自分にしかわからないものが、この世にはあるんだと、光は宿題をしながら気づいた。
それは、とてもさびしいことのように思えた。
さびしいけれど、宝物だな、とも思った。

そういうことを積み重ねるのが大人になるということ?
僕はそういう思いも(理解されなくても)なるべく発信したいと思ってる。
・・・ブログを始めた理由の一つだったりして。

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です