小説

【京極夏彦】【死ねばいいのに】人のせいにして生きていては人生楽しくならない

もくじ

あらすじ

三か月前に何者かによって殺された鹿島亜佐美(カシマアサミ)の事を聞いて回る若者、渡来健也(ワタライケンヤ)。

無職で高卒、敬語も怪しいケンヤが生前アサミに関係があった人々(不倫、隣人、情夫、母、警察)を尋ね、
「アサミの事を教えてくれ」と頼む。

皆、アサミに対しての罪悪感からか、最初は警戒するものの次第に話をはじめるが。
→そのうち、自分語りに
→周りは自分勝手、誰も俺を見ていない、私は我慢している、などなど
→そんなに生きるのが辛いならさ、死ねばいいのに。

感想

アサミの事が知りたいケンヤと
生前のアサミを知る関係者一人との対話形式で物語が進行。

ケンヤが知りたいことはアサミの事だけで、それが作中で一貫してブレていないのがいい。

話し相手たちは勝手に勘違いして、だんだんアサミの事から離れ自分語りになっていく。
相手の不満に対してケンヤは短く返答するだけだけど、それが的確な回答だから相手は返答に窮する。
自分は馬鹿だと揶揄しているが受け答えがしっかりしているんだよなぁ

みんな、自分が悪くなくて周りが悪いという考え方。
現状を変えたければ、まず自分が変わらないといけないんだよな。
というか、周りを変えるより自分を変える方が楽っつーか、簡単っつーか。

自分のやりたいことを100%理解できるのは自分だけだからね。
周りに求めて、期待して裏切られるよりかはいいよ。
自分自身に投資すれば、やっただけリターン出るし。

作中のどこで、共感したり、イラっとするかで今の自分の環境を俯瞰して見れる作品だと思う。
オススメ。

一人目:山崎

アサミの派遣先の直属の上司にして不倫相手。
中間管理職として上司、部下への不満。
妻への不満。周りの評価。

「あんた、何も悪い事してねぇ訳だろ」

「してないさ」

「なら、あんたの周りが悪い訳か?」

「そうだ。その通りだ。何もかも---」

「ならさ、辞めちゃえばいいじゃん。そんなクソみたいな会社。
分かれちゃえばいいじゃん。そんなクソみたいな嫁。
何でそうしない訳?面倒臭ぇ訳?」

「だから、世の中というのは---そう簡単なものじゃないんだよ。難しいんだよ。
色々あるんだよ。そんな、正論だからといってまかり通ると思ったら大間違いなんだ」

「俺、別に正論とか言ってねぇよ。あんたの方が偉くて賢いんだから、あんたが言うのが正論なんじゃねぇの?」

「お前みたいな人間に解るかよ。私の苦労が。
嫌でも辞められないんだよ。辛くても別れられないんだよ。
辛くて辛くてやってられないけど、もう限界だけど、それでも止められないんだ馬鹿野郎」

「何で?」

二人目:篠宮佳織

アサミの隣人
圧迫面接で面接を落とされ、派遣社員として生活。
アサミに彼氏を取られたと思い込み、迷惑メールで嫌がらせをしていた。

「あんたさ、確かに世の中馬鹿ばっかりと俺も思うさ。
で、あんたは馬鹿じゃねーのかもしんない。
だからってその馬鹿見下げてさ、見下げるのは構わねーけど、そうやって好きで身動き取れなくしているだけじゃん。
全部あんたが好きでしていることだろうが。好きに生きてて文句いうなよ。
仕事だって済むとこだって喰えて住めればそれでいいじーじゃん。
器ってーなら、今の暮らし、あんたの器に合ってねーんじゃねーの?」

高い服着てそれなりの部屋住んで。
学歴ひけらかして他人を見下して。
汚い言葉で罵りメール出し続けて。

「それが駄目だってなら、もう死ぬしかねーじゃん。死にたくねーなら掃除でも何でもするしかねーって。
美人なんだし学歴あるし。何が不満なんだか俺にはりかいできねーわ」

「待って。あたし」
あたしいやな女よね、と私は呟いた。

ケンヤは玄関で振り向くと、
「誰だってそんなもんじゃね」
といった。

三人目:佐久間淳一

ヤクザ。
兄貴分を抜いてもっと上を目指したい。
母親の借金返済のため20万で売れれたアサミを兄貴分から渡される。
アサミを愛していたと言うが・・・

「あんた、アサミを金で買ったんだろ。アサミは買われたんだよ。
金で女買うような男、信じるかよ。信じてーと思ったって信じられねぇよ。
だからよ、好きなら好きだってちゃんと言えよ。隠してんじゃねーよ。
黙ってて察して欲しかったんだろうけど、世の中そんなに甘くねーだろうよ。
それのどこが極道なんだよ。腰抜けじゃん」

「好きだよ。好きだったんだよ。アサミを護りたかったんだよ俺はよ」

「遅ぇよ。アサミはさ、もう生きてねぇの。言葉も何も通じねーの。気持ちも何も全部ねーの。
あんた、何してた訳よ。好きな女殺されて、それでもって悲しいとも言えねぇって、何?
何がそんなに大事なんだよ」

「若造のくせに偉そうな御託ばかりぬかしやがってよ。
お前、俺の立場になってみろよ。俺はよ、雁字搦めなんだよ。
無能な兄貴分に押し付けられたお古の女とよ、組とよ、どっちが大事だよ」

「どっちなんだよ」

女だろ。

四人目:鹿島尚子

アサミの母親。
アサミのせいで何もかもが上手くいかないと思っている。

「アサミとか関係ねーっしょ。あんた---尚子さんって、一人で生きてくの恐いだけなんじゃないすか?
誰かに頼って、誰かに何かして貰ってねーと、暮らして行けねーんじゃねーの?」

「自分で何もしたくねーんだ。
それってただの怠け者じゃないんすか。
親とか亭主とか子供にもたれかかっているだけでさ。
何もかもおっ被せて。自分は何もしてねーから悪くねぇってか」

それとも---

「そうよ。そうだわよ。それのどこが悪いのよ。何もしたくないわ。働きたくなんかないわよ面倒臭い。

ずっと寝てたいわ。ちやほやされたいわ。そう思うことがいけない?
みんなそうじゃないの?
そうでしょうよ。

口では偉そうなことばっかり言うけど、誰だってそうだわよッ!

「で---そういう風に生きられるんすか?」

「生きられないわ。でもそうしたいのよ。そうなりたいのよ。
そうならないのは、運が悪いからよ。馬鹿な親や邪魔な娘や駄目な亭主どものせいなの」

「そうじゃないなら幸せになんかなれないわよッ!」

鹿島亜佐美

人間。
客観的に見て彼女は不幸である。
でも、彼女は不幸と感じたことはない。
不幸になる前に、幸せの間に死ねばいいのに。
・・・提案を受け入れることにした。

渡来健也(ワタライケンヤ)

自称頭も弱くて、喧嘩も弱い。
殺した相手が人間なのか気になって仕方がない青年。
担当弁護士に「君は人殺しだよ」と宣誓され、ようやく憑き物がおちた。

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