小説

【潮騒】離島に住む男女の素朴な純愛【三島由紀夫】

小説『潮騒』表紙

小説『潮騒(三島由紀夫 著)』の感想レビュー。

三重県ある歌島を舞台にした(現在の神島の古名)を舞台にした、
若く純朴な漁夫と海女の恋愛が成就するまでを描いた純愛小説。
※歌島は、現在の神島のこと

もくじ

あらすじ

文明から孤絶した、海青い南の小島。
潮騒と磯の香りと明るい太陽の下で、
海神の恩寵あつい若くたくましい漁夫と、
美しい乙女が奏でる清純で官能的な恋の牧歌。

感想

何かトラブルが、二人の仲を引き割くなにかが、起こるに違いない!

汚れきってしまった僕の精神は、
作中のあれやこれやの出来事を障害として認識できていなかった。

もっと、もっとひどい事が・・・・
なんてゲスなことばかり考えて勝手にハラハラしてた。
創作物におけるトラブルのインフレも考え物。

というわけで、とても純愛。
純情過ぎて物足りなさもあるけど、
異性を知らない者同士のやり取りがいじらしい。

「ああ苦しい。あんまり笑うて、ここんところが苦しなった」
と少女は胸を押さえた。
仕事着の色褪せたセルの島が、胸のところだけ大きく動いている。
「ここんところが痛うなった」
と初江は重ねて言った。
「大事か?」
と新治は思わずそこへ手をやった。
「押さえてもろたら、少し楽や」
と少女が言った。
すると新治の胸も早い鼓動を打った。
二人の頬は大へん近くなった。
お互いの匂いが潮の香りのように強く嗅がれ、お互いの熱さがわかった。

初江ちゃんが積極的なんだよな。
新治、男を見せろ!早く、早くチューするんだ!!
・・・
・・

あぁ~青春センサーがキュンキュンする~ッ!!

初江ちゃんは都会本土の漁村(志摩の老岬、現在の三重県志摩市大王町波切)から歌島に出戻りしてきた素朴で可愛い女性。
一方、新治は島から殆ど出たことが無く、学も無いけど、仕事には一所懸命な純朴な海の男。

そこに、新治に横恋慕する娘の嫌がらせや、
初江を手籠めにしようとする島の男が居たりと恋の障害が沢山出てくる。

厳格な初江父に逢引が密告されて、毎日同じ場所に隠した手紙による交換日記。
友達以上恋人未満の二人による秘密の共有。
逢えないけど、気持ちは昂るってことあるんだね。

最後、清々しい気持ちになって、ページをめくったら”解説”。

・・・は?
まだ25ページ以上残ってるんですけど!?
ここから最終章始まるんじゃないの!?
信治と初江のちょっとしたエピローグでさらにほっこりさせてくれるんじゃないの!?

綺麗な終わり方だけど、
・・・ずいぶん淡泊に終わったなぁ

長い解説

古典作品によくある、作者の紹介や年譜付き。
そういうのいらないから本作品のことだけ語ってくれよな!

それでも全部読んでみると、
三島由紀夫が潮騒を書いたのは29歳のころ。
マッチョになる前、最後の作品なんだって。

中年に差し掛かった三島由紀夫が、
青春への懐古として、または、
青春との決別として書いた作品。
という評価。

ほんとかよ?

好きな本文

今も多くの若い衆は自分の家に寝るよりも、
浜辺のその殺風景な小屋に寝泊まりすることを好んだ。
そこではまじめに教育や衛生や、沈船引揚や海難救助や、
また古来若者たちの行事とされている獅子舞や盆踊りについて議論が闘わされ、
そこにいると、若者は公共生活につながっていると感じ、
一人前の男が方に担うべきものの快い重みを味わうことができた。

共同体に属するって大事。

いろいろ思いめぐらしていると、時間は意外に早く経った。
考えることの不得手な若者は、ものを考えるということのこの思いがけない効能、暇つぶしの効能を発見しておどろいた。
が、若いしっかり者は、考えることをきっぱりやめた。
どんな効能があろうと、ものを考えるという新しい習慣に、彼が何よりも先に発見したのは、端的な危険であったから。

考えることって大事だけど、
考えすぎて行動に移せないってことあるよね。

『俺はあの船の行方を知っている。船の生活も、その艱難も、みんな知っているんだ』
と新治は思った。
少なくともその白い船は、未知の影を失った。
しかし未知よりももっと心をそそるものが、晩夏の夕方、長く煙を引いて遠ざかる白い貨物船の形にはあった。

成長するって素晴らしい!

POSTED COMMENT

  1. ララ より:

    初江が養子にやられていた老岬って都会ではなくないですか?
    千代子に対する「横恋慕」や「嫌がらせ」という表現にもやもやするし
    ラノベじゃないのだから個人的には余計な後日談など無い方がよいです

    • renren より:

      >老岬って都会ではなくないですか?
      本当だ。本土だけど漁村って感じですね。

      >千代子に対する「横恋慕」や「嫌がらせ」という表現
      『屈折した恋心』という印象を受けて横恋慕や嫌がらせという表現を使いました。
      ララさんは千代子の感情をどう表現しますか?

      >個人的には余計な後日談など無い方がよいです
      余韻の残る良い終わり方でしたよね。
      僕は二人のその後もちょっと見てみたかったり・・・

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