小説

【夏美のホタル】房総半島の田舎で真夏の写真撮影。地元民の温かい心と料理に舌鼓【森沢昭夫】

単行本『夏美のホタル』表紙

『夏美のホタル(森沢昭夫 著)』の感想レビュー。

あらすじ

写真家の卵、相場慎吾(あいばしんご)はコンクールに出す写真を撮影するために
彼女の河合夏美(かわいなつみ)を連れて、房総半島の田舎に訪れた。

そこで出会った村のよろずや『たけ屋』を経営する、
地蔵さんこと福井恵三(ふくいけいぞう)とその母、福井ヤスエと仲良くなり、
ひと夏の間、敷地内の離れに居候できることになった。

二人は店や家事を手伝う傍ら、地蔵さんに田舎での遊び方を教わり充実した毎日を送る。

そうして夏が終わり、二人はたけ屋を後にする。
再び訪れることを誓って・・・

感想

最初は田舎に住む仏師の話かと思った。
冒頭で仏像を完成させたエピソードが挿入されたので、
本編はそれを作るまでの苦悩とか若いころの話になるのかな?
って思っていたら全然違った。
いや、違くはないんだけど思っていたものとアプローチの方向性が違うというか・・・

仏師の序章が終わり、次に始まるのが、
『二十代前半カップルのひと夏田舎体験記』。

慎吾が保育士の彼女、夏美を連れて(連れられて?)田舎の風景写真を撮るために仏師が働く房総半島の集落に訪れる。
村のよろず屋『たけ屋』の親子と仲良くなり、四畳一間の離れを借りてカップルでひと夏を過ごす。
という展開。

地元民が教えてくれる田舎の遊び方、主に川遊びの描写には(自分も川遊びが好きなことも相まって)読んでいて楽しかった。
田舎で遊ぶ傍ら、慎吾がシャッターチャンスを逃さずに撮る。
そのときの風景描写がとても郷愁を感じさせる。

ヤスばあちゃんが作る田舎野菜をふんだんにつかう料理もとても美味しそう。
夏も終わり、二人はたけ屋の親子に再訪を約束し集落を後にする・・・

ここまではとても面白かった。

以降はお涙頂戴の展開が続いて、心が汚れている僕は白けてしまった。
登場人物みんな清廉でさ。なんか現実感がなかった。

そこから時間が飛び飛びで季節と時間の把握が追い付かない。
夜だと思って読んでたら昼間だったりさ。
これは読解力の無さが招いた結果だけど。

他人の死に対して、慎吾や夏美みたいに真摯になれるかな?
僕は親でもこうはなれないよ。

終盤、慎吾が仏師の雲月のところへ仏像の制作依頼に行って、
冒頭のプロローグに繋がる展開ね。
最後、プロローグ読み返しちゃったよ。

心が温かくなる作品です。

作者あとがきを読んで

この作品、いまいちメッセージ性が弱いというか、
何を伝えたいのかよくわからなかった。

『とある田舎の日常模様』を描いただけの話なのかな?
日常は続いていくエンドだったし。
でもなんか違うような・・・?

あとがき

ぼくがツーリングの途中でたまたま出会ったのが「たけ屋」のモデルとなったお店です。
物語のなかの夏美と同様、ぼくはトイレを借りたくてお店に飛び込み、
それからずっと親しくさせて頂きました。
つまり、地蔵さんヤスばあちゃんのモデルは実在していたわけです。

中略

仏壇の前で両手を合わせ、
「お二人のあったかい人柄が、そのまま読者の心に届いて、ほかほかにしてくれますように」
といのってみました。
その祈りが、いまこの「あとがき」を読んでくださっているあなたに届いていたとしたら著者はとても幸せです。

違和感の正体はこれだ!
作者は『思い出の共有』をしたかったんだ!
【実体験】の描写と【創作】の描写とで内容の密度が違うから変な感じがしたんだ。

気になる描写1

■バイク
 CBX400F(ホンダ)

■車
 ワゴンR(スズキ)
 レガシィツーリングワゴン(スバル)

■カメラ
 キャノン(キャノン)

なんでカメラだけメーカー名なんだよ!
気になる気になる!!

気になる描写2

作中に出てくる『蟋蟀』という単語読めるかな?

正解はコオロギ。
ルビをふらないのは読者が読めると作者が判断したからなんだろう。
読めないのは俺の無知が招いた結果だしょうがない。
調べたから次はちゃんと読めるぞ!

再登場した。
蟋蟀(コオロギ)
テ、テメー!こっちにはしっかりルビ振ってるじゃねーか!
なんで初出時にルビ振ってくれねないんだよ!!
ふざけやがってェ・・・!

表紙について

単行本表紙
単行本『夏美のホタル』表紙

文庫本表紙
文庫『夏美のホタル』表紙

どっちもいいなぁ
デザインが違うとどうしても比較してしまうね。

印象のに残った言葉

■ヨシノボリ
ピリリと唐辛子の利いた佃煮にしてくれた。
これは絶妙なご飯のおかずだった。
唐辛子ではなく、山椒の実と一緒に弱火でことこと煮詰めると、
ヨシノボリそのものの味がぐっと引き立って、酒のつまみとしても申し分なかった。

■どじょう
二、三日ほど水道水の水槽で飼って泥を吐かせたあと、
濃い目の出汁でさっと煮て、醤油で味付をし、
卵とじにして食べた。即席の柳川鍋だ。
川原に生えている野生のセリやミツバを添えると、
ひときわ風味がよくなる。
どじょうの肉にある独特の苦みとうま味は、油でさくっと揚げて塩と胡椒をふって食べると最高で、ビールのつまみにもぴったりだった。

■沢ガニ
素揚げして軽く塩を振ってたべる。
小さい沢ガニの方がうま味が凝縮されていて美味しかった。

川の食材たちの描写がとても美味しそう。
他にもうなぎ、ウグイ、テナガエビなど食べてる。

雨後の森もまた幻想的だった。
しっとりと濡れた枝葉に生じた無数のしずくたちが、夏の強い木漏れ日を浴びて、プリズムのようにきらきらと輝いていたのだ。
ぼくは、ふと足を止めて、静かに周囲を見回した。
その瞬間、背中と両腕に鳥肌が立った。
気づけばぼくは、幾千万もの光の粒の真ん中に立っていたのだ。
やがて一匹のアブラゼミが高い木の上で鳴き始めた。
すると、それに呼応するように八方の蝉たちが一斉に歌いはじめ、雨上がりの森は一瞬にして「真夏」が沸騰した。

季節の描写がとても良い。

「人間ってのは、何かと何かを比べたときに、いつも錯覚を起こすんだって。だから、自分と他人をあまり比べない方がいいって」
「他人と比べちゃうとさ、自分に足りないものばかりに目がいっちゃって、満ち足りているもののことを忘れちゃうんだってさ」

分かる。幸福は自分の中に求めて自己循環、自己完結するべきなんだ。
でも、たまには他人と比較して天狗になりたいよね←ゲス

「才能ってのは、覚悟のことだ」
「覚悟・・・?」
「どんなに器用な人間でもな、成し遂げる前にあきらめたら、
そいつには才能がなかったことになる。
でもな、最初に本気で肚をくくって、命を懸ける覚悟を決めて、
成し遂げるまで死に物狂いでやり抜いた奴だけが、
後々になって天才ってよばれるんだぜ」

努力すればだれでもなれる?

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